ユーミンの思い出
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ユーミンとの思い出は高校時代である。
ユーミンとは同じ中学で家も近所だった。
そして同じ高校に通っていた。
(そうすると同級生にはもうばれちゃうのだけど・・・)

ユーミンは独特な雰囲気を持っていて、
健康的なというよりは、茶髪にパーマをかけて
長いスカートをはいた少し不健康的な子だった。
しかしなんとも独特な雰囲気を持っていて、
それ故に、人気はあったがちょっと孤独な感じで、
同級生たちはみんな何となく一目置いてた。
そして私ともあまり言葉を交わすことはなかった。

そんなユーミンと接点があったのは高校二年生のとき。
同じクラスになり何となく言葉をかわすようにはなったが、
特別仲が良かった訳でもなかった。
その年の秋には修学旅行があって、(私は同じ中学だったこともあり、)
ユーミンのことが好きな同級生に頼まれて、
ツーショットをセッティングをしたりもした。

しかし、ユーミンは上級生とつき合っているという噂通りで、
同級生は見事に粉砕してしまった。

そんなある日、あれは何だったのだろう?
体育大会だか球技大会の打ち上げがあって、
それでみんなでえらくお酒を飲んでしまった。
いけないね。未成年なのに。
そしたらユーミンが酔いつぶれてしまって、
私と一緒にタクシーで地元の家の近くまで帰り、そこから
酔った彼女のいいかげんなナビゲートを手がかりに、
彼女をおぶって一軒一軒家を探して、
なんとか彼女の家の玄関まで連れて帰った。

次の日、何も覚えていないユーミンは申し訳無さそうにお礼を言ったので、
私は(いつもの)軽口で「そしたらお弁当でも作って来てよ!」と言ったら、
次の日、本当に作って来てくれた。

それがわたしの「ユーミンの思い出」

弁当の中身も何だったかよく覚えていないが、
なぜかその弁当箱の色や形だけはよく覚えている。
青くて二段重ねの弁当箱である。
(大事なことは覚えていなくて、どうでもいい事ばかり鮮明に覚えている)

それから25年後。

最近初めて、中学校の同窓会があって、そこで彼女に25年ぶりに会った。
そこには期待以上でもなく、期待以下でもない、
普通に25年後のユーミンがいてうれしかったのだが、
そのお弁当の事を話したら、
彼女はそんなこといっさい覚えていなかった。

わたしの「ユーミンの思い出」は
ユーミンの思い出ではなかったようだ。

さて、最近「日本の恋と、ユーミンと」という
松任谷由実の40周年記念ベストアルバムを買った。
可も無く不可も無い、なかなかいい選曲だと思うのだが、
実は私が一番好きなユーミンの曲は、そんなベストには選ばれる事の無いような
地味な曲である。




ゆれる海に潜るような
何もきこえない ひとりぼっちのとき
きみはハンター もがきながら
宝物みつけ きっと戻って来る

かわってあげられぬ痛みが哀しいわ
どんなに思っていても

たなびく夕映えの雲 私に
涙あふれさせてくれたかわりに
そっと呼んで つらいならば
時を かけて行くわ

人は勝手ね 淋しいからよ
きみらしいフォームでゆっくりと泳いで

疑うこともなく知り合う人々を
“ともだち”と呼べた日々へ

ふりそそぐ8月の雨 私を
はだしで笑わせてくれたかわりに
そっと呼んで 胸の奥で
ずっと そばにいるわ
今日も 明日も ずっと


(ALBUM:Reincarnation)


私が同級生のユーミンに抱いていたのは恋心とはちょっと違うと思う。
だけど、彼女の抱えていた様々な何かは
どこかで僕の心とシンクロしていたんだと思う。
それは決して形になることは無く。

そして、消えなくなった。

そんな彼女が25年後、結婚して家庭を築き、
私に作ったお弁当の事なんかすっかり忘れてしまたって、
それはそれでいいじゃないかと思える。
今ではもう通じ合う必然も無いのだから。